第2話

私は、ホラー映画が得意ではない。

ホラー映画と一口に言っても色々あるが、私から言わせれば邦画のそれは何でもない。

日本人の奥ゆかしさが如実に現れているのかもしれないが、邦画のホラーは間接的、スピリチュアルな方向に傾倒している節がある。

平たく言えば、幽霊や妖怪の類が予てより恐怖の象徴として化けている。文字通り。

では、直接的、ひいては私が苦手とするものは何か。

そう、暴力の描写、それも思いっきりグロテスクでスプラッタな物だ。

あれはどうしても誰しも経験しているであろう「痛み」をモチーフにしているので移入しやすい。ずっと見ていると自身が実際に切り刻まれている様を容易に想像できてしまう。したくないのに。

それに、何となく人間の業の深さを推し量れてしまう。何なんだよムカデ人間って。よしんばフィクションだとしても思いついてしまう人間性は推して知るべしだろう。



まあ、そういうわけで。

私がトラックに押しつぶされた描写については、割愛させてもらおう。


ーーー

死後、人がどうなるかと言うのは現代に於いても度々議論がなされる。

古代より掲げられた命題であり、そもそも基本現存する宗教というものは死後救われるための方法として存在するものである。

度々現代では一般人が想像しうる範疇を超えて物事を思考できる「天才」と呼ばれる者が産まれ落ちる場合があるが。

結局の所アリストテレスも、ニュートンも、アインシュタインもラマヌジャンも。

死してやっと死後の世界について確証を得たんだと思う。

まさかこのように俯瞰して散り散りになった自身の肉体を見ることができるとは。

先程あれだけ言ったじゃあないか。私はホラー映画が苦手だって。


ーーー

一度自身の肉体の惨状を生中継した後は、しばらく気を失っていたように感じる。いや、そもそも死んでいるんだろうから、気を失うもクソもないが。

で、私は景観も何もへったくれもない真っ白な空間に佇んでいる訳だ。



ここまで延々と自分語りをしてきたが、やっとこさ今に至る。



それで、ここはどこなのだろうか。

見渡す限り一面の白。距離感どころか体内時計すら曖昧になっている。そもそも私は肉体を失っている訳だし、色の認識が正しいのかもいまいち分からない。

というか五感すべてが希薄に感じる。それでも少しの不安と恐怖。日本の映画監督よ、180分スクリーンに真っ白な映像を垂れ流すだけで人々を恐怖の渦に巻き込めるかも知れないぞ。




「ここに来た魂は須く漂うだけだというのに。あなたはなぜ日本の映画の昨今を憂いているんでしょうか?」




ふと、女性の声。


次話投稿、未定。

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